十分な睡眠時間を確保できない時は、脳と体の機能で使えるものは何でも使いたいところだ。ここでは、脳の働きを活性化させるために、プラスαでできることを説明する。
▼目次
12時間の原則
記憶は神経の活動だ。新しいこと覚えると、その情報を伝達するための神経が増える。しかし、そうして増えたままにしておけば、脳内の神経はたこ足配線のようになってしまい、情報伝達のエネルギー効率が低下する。そこで睡眠中に入らない神経は消去される。
神経活動は電線にたとえるとわかり易いだろう。一度電気が通った電線でも、その後ずっと電気が通っていないなら、その電線は撤去した方が電気効率は上がる。もちろん、頻繁に電気が通る電線 は残しておく。したがって、この頻繁に電気が通るという状況を作ってしまえば、残したい神経を残すことができる。「頻繁」の目安は、12時間以内にもう一度電気が通ることだ。つまり、一度覚えたことを12時間以内にもう一度記憶することができれば、その記憶は脳にとって必要だと判定されるのだ。この12時間以内の復習を簡単に習慣にする方法は、就寝1時間前に勉強し、目覚めた直後に見直すことにある。
就寝1時間前に入浴して深部体温を上げると、その反動で約1時間後に急激に深部体温が下がり、深い睡眠が作られる。この間の時間を最も覚えたいことを記憶する時間に充てるのだ。
そして、睡眠を経て目覚めた直後に、就寝前に学習した内容をパラパラと見返すのだ。この復讐によって、脳内で作られた神経にもう一度電気が通る。ただし、ベッドでは睡眠以外の行動しない方が良いので、寝る前、目覚めた後に勉強するのは、あくまでもベッド以外の場所でしなければならない。
記憶力を高める香りの効果
脳がある記憶を残すか残さないか判定する基準がもう一つある。それは、香りである。香りは神経にタグを付けるような役割をする。人は何かを記憶する時、香りとセットで記憶する性質がある。香りのタグが付いた記憶は残されて、タグが付いていない記憶は消去される。
例えば、勉強する机の上にティッシュを置き、そこに気に入っているアロマオイルを一滴たらす。そして、眠る部屋にも同じように、あらかじめアロマオイルを一滴たらしておき、寝室に入ったときにふわっと香るようにする。これだけで、勉強した内容が香りでタグ付けされて、より記憶が定着する。
記憶力を上がる食事法
食べ物については、栄養素と記憶との関係の研究は多く、トマトに含まれるリコピンや、青魚に含まれるDHAが9億力向上に関与するという研究結果がある。とはいえ、忙しい時は、バランスの良い食事を摂ることが難しくなる。実際に役立つのは、何を食べるかよりいつ食べるかなのだ。
遺伝子操作がしやすいことから生体リズムの研究にはショウジョウバエが使われるが、その研究から空腹時ほど記憶力が高まることが明らかになっている。
まず、ショウジョウバエに匂いと電気ショックを与えて嫌な記憶を作る。それによって、匂いと電気ショックが結びつき、以降その匂いを嫌がる反応を示す。ただし、一回だけでは学習しないため、15分間隔で復習させる。ところが、9~16時間絶食した後のハエは、一回だけで学習し、1日後でもその記憶が続いたという結果が得られている。
あなたも空腹時の方が満腹の時よりも、集中して記憶できるという体感があるかもしれない。動物にとって空腹は、生存の危機だ。餌を見つけたら、確実に記憶しなければならない。こんな理由から記憶力が高まると考えられている。
ショウジョウバエの実験では、9~16時間の絶食で記憶力が上がった。我々の生活に当てはめると、例えば7時に起床して朝食を食べたら、次の食事は9時間後の16時以降にすることで記憶力を上げることができる。この時、食事は朝食と夕食の1日2食となる。1日3食摂るべきだと思って無理に食事をしていた人は、2食でも良いことになる。むしろ食べない方が記憶力が高まるということだ。
実はこの実験には続きがある。20時間以上絶食させ、過度な空腹状態にしたところ、今度は逆に記憶が続かなくなったのだ。20時間を超える絶食ということは1日一食になる。
20時間以上の絶食では、自分にとって良い記憶は続くが、悪い記憶は弱まるという反応がみられた。例えば、過度な絶食でダイエットをしている人が、食べる時は吐くまで食べるということがある。過度な絶食によって、自分にとって不利益なことが記憶できなくなってしまい、望まない行動を繰り返してしまっていると考えられる。
もちろん、ショウジョウバエの実験をそのまま人間に当てはめることはできないが、無駄な間食やだらだら食べることを避けて、わざと何も食べない時間帯を作ることが、記憶力向上に役立つと言えるだろう。
朝食を食べて集中力を上げる
空腹時は記憶力が上がるのなら、朝食を取らずに勉強を始めた方が良いのかと思われるかもしれないが、朝食はしっかり取らなければならない。
朝食と事故の関係が示された研究がある。交通事故は車の速度が70 km を境にして、速度が上がるほど増加することが知られているが、朝食をとったドライバーととらなかったドライバーの事故率の調査結果を見ると、朝食をとっているドライバーは、時速70 kmでも100kmでもその事故率に変化はなかった。一方、朝食をとっていないドライバーは、時速70キロを超えると事故率が増えていき、110キロでは朝食をとっているドライバーの約5倍の事故率になっていたのだ。この研究結果から推察されるのは、朝食をとらないことは集中力の低下につながるということだ。
絶食時間を作った方が記憶力は上がる。ただし、朝食を取らないと集中力は低下する。つまり、朝食をとった上で、他の時間で絶食時間を増やすことが理想ということになる。
なぜ、このような食事方法が我々の記憶力や集中力に関係するのだろうか?これには、睡眠のリズムを作っている生体リズムが関係してくる。生体リズムは脳が朝の光を感知することでスタートし、このリズムによって脳は起床4時間後に最も冴える。ただし、光以外にも、生体リズムのスタートに影響を与えるものがある。それが食事だ。食事と生体リズムの関係は、長い絶食の後に食べた時間からリズムがスタートするというものだ。
1日3食摂る生活をしていれば、食事の間の時間が最も長いのは、夕食と翌朝食になる場合が多いだろう。脳は長い絶食後の食事が1日のスタートであると感知し、生体リズムをスタートさせる。
もし、あなたが昼食をとらず、夕食の後に夜食を取る習慣があったとする。朝食はしっかり食べるけど、忙しいから昼食をとる暇がない。仕事や学校が一段落して夕食を軽くとり、残業や塾の後、遅い時間に夜食をとる。このような食生活の場合、最も絶食が長いのは、朝食から夕食の間になる。すると、脳は夕方が1日のスタートだと感知するので、寝る前の時間帯に眠くならず頭が冴えてしまい、朝になってもなかなか起きれない夜型のリズムになってしまう。
朝食をとらないと記憶力や集中力が低下するのは、光で作られた生体リズムと食事で作られたリズムがずれてしまった結果だと考えられる。光のリズムと食事のリズムを同調させるには、朝食をとることを前提にして、その前に長い絶食時間を作ることが必要なのだ。
まとめ
記憶を定着化させたいのであれば、就寝1時間前に一時記憶し、朝起きたら見返すだけよい。また、香りの効果を利用すると、記憶がタグ付けされて、より記憶の定着するのだ。
そして、過度な量の食事を取らないようにすることで、記憶力が向上するのである。しかし、過度な量の食事を取らないようにするために、極端に量を減らすとか、1日1食とかならないように注意しなければならない。もう一つ大切なことは、起きた直後の食事を抜いてしまうと、集中力が低下するので、しっかり食べることをおすすめする。