言葉で他人を操る心理術

そんなつもりではなかったが、いつのまにか頼まれ事を受け入れていたという経験はないだろうか?

もしかしたら、相手はあなたを心理術的な方法で操っていたかもしれない。

もし、相手に利用されたくない、もしくは利用したいとあなたが思っているのであれば、相手よりも自然と優位に立つためのテクニックを、この記事から学んでもらいたい。

▼目次

声色を使い分ける

相手を言葉によって導く時、ロジカルな思考が強い男性は、内容そのものに重きを置きがちだが、状況や相手によっては、声の質や大きさにも注意を払う必要がある。

窮地に追い込まれた状況で、返答の際に気を付けるべきなのが声の抑揚だ。例えば、恋人や妻から浮気を疑われた時、最もまずいのは感情をあらわにすることなのだ。声のトーンが高くなり、上ずったりして、早口で筋の通らないことを言うと、ますます疑惑の目を向けられる。修羅場や別れ話を避けて、うまく逃げるためには、低い声でゆっくりと話すことで、相手を丸め込むことができる。

20世紀後半のアメリカ大統領選挙の得票率と声のトーンの因果関係を調査したデータによれば、声の低い候補者の得票率のほうが、声の高い候補者の得票率よりも高かったという結果がある。特に、レーガン元大統領は低いハスキーな声を巧みに利用して、多くの支持を得たと言われている。さすが俳優出身だけであって、声の重要性を認識していたのだろう。低さにハスキーという特徴がプラスされることで、男らしさとあたたかさが強調されたのだ。

男性の低い声は、女性にとっては男らしさの象徴として魅力的に響く。男性の場合、やや低音で語尾に力があり、物事をはっきり言う態度が好まれる。また、声の大きさを使い分けることも重要だ。相手との距離を縮めたいと思った時には、ささやき声を使うと親密度が増すと言われている。この事をレーガン元大統領は経験から心へていたのか、低音のハスキーな声に加え、ささやくような話し方で親しみやすさを演出していた。

デキるやつと思わせるにはどうするか?

ビジネスの現場でプレゼンをしたり、営業先で商品やサービスを売り込んだりする時、説得力のある口調・雰囲気を演出したいと考える場合には、スピーディーにイントネーションをつけて話すのが望ましい。

しかし、話すスピードは相手の年代によって変える必要がある。ある実験で、4~82歳の約3500人に、自分が3分と感じた時点でボタンを押してもらったところ、年齢が高くなるほど実際の3分を過ぎた時間でボタンを押す傾向が見られた。さらに分析すると、2~4歳年齢が上がるごとに1秒長く感じ、70代では1割増しで時間を長く感じるということがわかった。

つまり、年を取るほど自分が感じる時間の経過はどんどん遅くなり、実際の時間の経過の方を早く感じるのだ。よく大人が「時間が経つのが早い」と言っているのはこのためだと考えられている。こうした実際の時間と人間が感じる時間の違いのことを心理学では時間感覚と呼ぶ。年代の違いによる時間感覚を考慮すると、50代の人に向けて話す時は、20代の人に向けて話す時より、ゆっくりと話した方が印象が良いと言える。相手の年代が特定されている場合や、年齢層が同じ人たちを相手に話す時は、意識する必要がある。

男性は能力をほめろ

どんな人でも、褒められて悪い気持ちになる人はいない。例え、その場で何ともなくないような顔をしていても、心の中ではきっと喜んでいる。しかし、ほめるポイントは男性と女性では変わってくる。このポイントを外すと的外れな発言となり、相手に響かないばかりか、場合によっては「自分のことを全然わかっていない!」と思われることにもなりかねない。

男性をほめる場合は、相手の能力をほめることが重要だ。なぜなら、男性の脳には狩猟本能の働きがあるからだ。その昔、男性は家族のために獲物を捕まえるのが大事な役目だった。つまり、獲物を捕まえる能力があるかどうかが全ての世界なのだ。そのため、「鍛えられた体ですね」「A社の契約を勝ち取ったんですって?すごいですね!」など、強さや成果結果と言ったことに結びつくほめ言葉に喜びを感じるのだ。男性は能力をほめられ、プライドをくすぐられる言葉に弱いのだ。

相手が男性の場合は、その他に能力の結果として得られたものをほめるのも効果的だ。自分の能力を使って得たものは、闘争の末に獲得してきた戦利品で、成功の象徴であり、達成感を満たすアイテムとして、自身のアイデンティティが及んでいるためだ。例えば、ボーナスで買った車や時計、マンションといった高い買い物がこれにあたるだろう。「その時計高級そうですね」「仕立ての良いスーツですね」などといった言葉でほめれば、男性はきっと喜こぶことだろう。

能力の結果、得られるものは何もモノだけに限らない。学歴や地位も能力が高いからこそ得られるものだ。「◯◯大学といえば一流ですよね」「あの会社の部長さんなんですか?」などの言葉は、多少わざとらしく、おだてだとわかっていても、満たされた気持ちになるのだ。ほめられ尽くした結果、キャバクラのお得意様になっているという男性は、まさにこのような心理状態になっているのだ。

女性は行動をほめる

女性をほめる場合には、成果や結果を求めてもあまり効果はない。基本的に男性よりも女性の方が疑り深いので、能力をほめたところで猜疑心を抱かれる。それよりも相手の行動や行為そのもの、つまり結果よりもプロセスをほめる方が効果的だ。

例えば、仕事で頑張った女性をほめる時は、「今月の営業成績トップだね」という言葉よりも、「いつも遅くまで残業しているよね」「お客様への心配りが細いね」と言った言葉をかけてあげるほうが喜ぶのだ。

かつて、女性は家庭を中で支えることが大きな役目だった。男性の仕事とは異なり、成果によって違いが現れる仕事ではない。それよりも、毎日の積み重ねが重要な役割だった。だからこそ、コツコツと頑張っている姿をほめることが大切なのである。また、女性の場合、理解を示しながらほめるのもポイント]である。女性は共感し合うことを求める気持ちが強いため、好意を持ってもらうためには、相手の気持ちや効果を受け止めつつ、ほめることが大事だ。 おしゃれを気を配る女性には、「そのスカート、センスいいですね!」「昨日、髪切ったでしょ?似合ってるね!」というようなほめかただ。

しかし、当たり前のことをほめてもあまり効果はない。美人で普段からチヤホヤされている女性に、「美人ですね」とほめても印象に残りづらく、「ああ、またか」と思われるだけだ。

そんな時には、内面をほめたり、ちょっと違う角度からほめるといいだろう。「そんなことまで考えてくれるなんて、優しさが溢れているね」「仕事の時に見せる知的な眼差しがいいね」と言った表現だ。普段言われ慣れていないだけに、インパクトもあるので、「あの人は本当に私を分かってくれている」「私のいい面を引き出してくれるに違いない」というように、恋心に近い感情を持つこともあるだろう。女性をほめようと思ったら、普段からその人が何に関心を持っているかをリサーチし、行動やしぐさをよく観察することが大切だ。

空気を読む

言語学において、文章の前後や背景のつながりのことをコンテクスト(文脈)という。日本語のように、言葉を尽くして相手に意図を伝えるよりも、相手の意図することを状況によって察する言語環境のことをハイコンテクスト文化という。逆に、論理的な言語に頼り、説明能力や説得・交渉といったコミュニケーションを重ねて、意思の疎通を図る欧米型の言語環境をローコンテクスト文化という。

日本語のようにハイコンテクスト文化が成り立っている環境では、言葉そのものだけでなく、その裏を読む能力が求められる。日本語を上手に使うには、行間を読む・空気を読むことが必要になるのだ。

例えば、「暑いね」と言われたら、単純に天気のことを話題にしたい場合もあるが、状況によっては「この部屋、熱気がこもっているから、エアコンをつけてほしい」という真意が隠れている場合もある。

こうした言語環境では、自ずと本音と建前が生じやすくなる。日本語で人を支配するには、本音がどこに隠れているのかにも注意しなくてはならない。

相手の本音をさぐる

空気を読む以外にも日本語の表現で注意したいポイントがある。それが「個人的には面白いと思うのですが」「概ねOKなのですが」といった言い回しだ。よく使われる表現だけに、ドキッとした方も多いのではないだろうか?

これらの表現の中には「面白い」「OK」と肯定的な言葉が入っているので、それだけで安心してしまいがちだが、その後の「なのですが…』が続いてる点が問題だ。日本語には肯定なのか否定なのか、最後まで聞かなくては分からない文末決定性という特徴がある。文末に否定形が入ってる場合は、否定の気持ちのほうが強いことが多いのだ。日本人のなるべく曖昧にしたい・穏便に済ませたいという気持ちが、よりこの表現の多様を生むのだ。相手の真意を知りたい場合には、文末に注意を払う必要がある。

逆にいうと、この表現は否定の気持ちを和らげたい場合には使えるので、上手に会話の中で使えるとクッションの役割を果たす。ただ、鈍感な人が相手のときや、物事をストレートに伝えたい場合は使わない方が良い表現だ。

甘い言葉はメールが効果的

現代では、電話やメールなど、顔を合わせなくても言葉を交わすツールを1日のうちで何度も使う機会が増えてきている。これは親しい間柄だけでなく、ビジネスにも欠かせないツールなので、特徴を踏まえて活用していかなくてはならない。

電話やメールは対面で言葉を交わすよりも、二次的三次的な情報が入らない閉ざされた空間でのコミュニケーションである。対面での会話以上に言葉が主役のコミュニケーションツールだともいえるだろう。

とりわけ、メールや手紙と同じように、自分のイメージを広げやすいツールだ。言葉の意味内容から、様々な推論が展開される。例えるならば、映画よりも小説の方が、人物や場所についての想像力が働くのと同じようなもの。自分が期待している世界が広がり、感情の高ぶる。

こうした状況では、悪い出来事はより悪いイメージを、良い出来事はより良いイメージを膨らませる。つまり、謝罪やクレーム対応など悪い状況では、メールや電話は使わない方が無難だということだ。謝罪やクレーム対応は、相手が悪い想像を膨らませないうちに、すぐに駆けつけて直接対面で応対した方が良いだろう。

逆に、ハッピーな知らせやロマンチックなささやきはメールや電話で伝えるほうが、より感情の盛り上がりを生むのだ。インターネットで出会った二人が、わずかな逢瀬しか重ねていないにも関わらず、結婚にまで至るのは、閉ざされた空間での感情の高ぶりがあってこそ。

また、メールはマンネリ化した恋人関係を修復するのにも役立つ。相手がいて当たり前の環境になったと悩んでいる時は、思い切って会う回数を減らし、1、2ヶ月はメールを中心にやり取りをしてみては如何だろうか?お互いに良い面だけを見せ合える関係をもう一度作り、そこでロマンチックなささやきを重ねる。一度離れた気持ちが再びよみがえり、想いや絆を深める役割を果たす。

無言のテクニック

ここまでは主に言葉で相手より優位に立つための基本的な考え方や心構えを説明してきたが、ここからは、他人を言葉で上手に誘導するテクニックを具体的に説明する。

まずは、あえて言葉を制限する無言のテクニックだ。言葉を発するのを抑えるだけで、相手の心情をコントロールすることもできる。言葉で操ると聞いて、ハードルが高いと感じた人にはうってつけの方法とも言えるだろう。

その一つが[相手の話をじっくり聞く「傾聴」]という方法だ。これは現代の臨床心理学の現場でも主軸として採用されている方法である。アメリカの心理カウンセラーであるロジャースが提唱し、現在のカウンセリングスタイルの基になっている。

傾聴には、相手に話をさせることで気持ちを整理させ、現状に不満があれば、自分の取り組み方を振り返って反省し、なんとか自分で解決方法を見に出せるようにする効果がある。また話に耳を傾けることで、無条件で自分を受け入れてくれる相手に信頼感を抱く効果もある。

これを応用して、無言で相手に自分の要求を飲ませる方法がある。例えば、仕事が忙しくて何かとおこりっぽい彼女に、いつも笑顔で接して欲しいと思ったとする。彼は、恋人が夜遅く帰宅したところを見計らって、「忙しいみたいだけど、仕事大変なの?」と声をかける。すると、彼女は仕事に対する不満や自分の置かれた立場の大変さを話し始める。あなたはときに相槌を打ちながら、ひたすら傾聴する。彼女はそのうち、話を聞いてもらったことで欲求が満たされ、自分を省みりはじめることになる。

沈黙で強い自分を演出

無言のテクニックは、「相手を拒否したい」「相手に恐怖心を与え、強い人物を装いたい」という時に使える。無表情で頷きもせずに話を聞くことで、相手は必ずペースを乱し、話そうとしていたことへの自信を失うのだ。

これは「うなずき」の実験でも証明されている。実験では面接試験に訪れた男性を対象に、45分の面接時間の中で、一方のグループには1面接官が盛んにうなずき、もう一方ではうなずく回数を増やさないという条件で行われた。すると、たくさんうなずいていた方のグループでは、被験者たちの発言が増えうまく話ができたのに対し、もう一方のグループには、そうした変化が見られなかったのだ。

この実験結果から分かるとおり、うなずきは発言の潤滑油になり、早めのペースでうなずくことで相手の口は滑らかになる。しかし、話の上手い人の営業トークに言いくるめられたくない場合は、逆にうなずきをなくせば、相手の調子を上げさせない効果があるのだ。

これは、弁の立つ友達や会社の同僚を相手にしたコミュニケーションの際にも使える。いつも要求を飲まされてしまう、口喧嘩ではかなわないと言った状況で、無言を貫けば相手のペースにはまるのを防ぐ。さらにその後、否定的な言葉を持ち出せば、相手はそれ以上話を進められなくなるだろう。

情報を制限する

無言のテクニックの中でも少し高度なのが、情報を制限することだ。相手と話をして説得したり、思い通りに事を運ぶためには、思ったことを全部言えばいいというものでもない。

目の前に美味しそうなアイスクリームやチョコレートがあったとする。ちょっと小腹が空いていると感じているような状況では、美味しそうと思い手が伸びるだろう。しかし、カロリーの表示があったり、生クリーム入りなどの文字を見て、やっぱり太るからやめておくという気持ちになったこともあるだろう。

もし、カロリーの表示がなければ、何の疑問もなく美味しく味わって可能性もある。ある意味、知らない方が幸せだったとも言える。

これは、私たちの会話に対しても同じことが当てはまる。男性が恋人に向かって、「今まで20人と付き合ってきた」と言われたら、せっかくラブラブな雰囲気だったとしてもげんなりする。これも彼女は知らなければ幸せだったはずだ。

あえて言う必要のない言葉を選別するのは、テクニックというより気遣いかもしれない。言葉を発する前に、これは話すべきかどうかを一度考えてから口にする方がいいだろう。

ピグマリオン効果

自分が有利な状況にするために、言葉で他人を上手に誘導する心理術の手始めとして、ほめられてうれしくない人はいないという話をした。さらにそこからもう一歩踏み込んで、相手を自分の期待する方向性に持っていく「ほめて育てる」育てる心理テクニックを紹介する。

ある実験で、小学校5年生に5日間算数のテストをさせ、一つのグループには成績を問わずにほめて、二つのグループには叱責し、三つ目のグループには何もしないという内容で対応わけ、成績の伸びを比較した。すると、成績をほめたグループは成績が上がり、叱責したグループは成績が停滞、何もしないグループでは変化が現れなかったのだ。

このように、期待することによって対象者からやる気が引き出され、成績が向上する現象を「ピグマリオン効果と呼ぶ。キプロスの王ピグマリオンが自分で掘った象牙の乙女像を愛し続けた結果、乙女像が本物の人間になったというギリシャ神話にちなんで、心理学ではこのような呼び方をしている。

もちろん、この心理術は何も子供に限ったことではなく、大人にも使える手法だ。恋人に優しくしてほしいと願うなら、何かしてくれた時に「気遣ってくれてありがとう。よく気が付くよね」、夫に家事に協力的になってもらいたいなら、手伝いをしてくれた後に「ありがとう。重いものを持つのは辛いからとても助かるわ」など、事あるごとに行為をほめる言葉を相手に投げかけることを繰り返すだけでいいのだ。これは意識すればすぐできることなので、是非実践してほしい。

ほめ殺し

ほめるテクニックを駆使すれば、好きな相手だけでなく、敵意をむき出しにしてくるライバルやいけすかない相手さえも操ることができる。好きでもない相手をほめるというのは、少々腹立たしいかもしれないが、相手を手なずけるステップと思う苦にならないだろう。

もし、あなたがライバルを手懐けて、嫌な仕事を押し付けてやろうと思ったとする。こんな時に利用したいのが認知的不協和という心理学的概念だ。認知的不協和とは、1975年にアメリカの社会心理学者レオン・フェスティンガーが提唱した概念である。

これは、人が何らかの出来事に遭遇した際、その出来事が今まで思っていたのと違う状況のとき(不協和)に、それを解消しようとする気持ちが働くという心理を説明したものだ。

例えば、「ライバルにほめられる」というシチュエーションもその状況にあたる。ライバル関係というのは、普段お互いの力量を認め合う関係にあったとしても、称えあう関係ではない。だから、ライバルには「ほめられるはずのない相手にほめられる」という不協和が生じる。そのため、心の中ではその不協和を解消しようと、「あいつは案外いい奴なのかもしれない」と思い込む作用が働くのだ。

こうしたほめ殺しともいえる機会を折に触れて設けることで、相手は次第に飼いならされた状態になる。ライバル心や敵対心は消え、いつしかこちらの言うことを聞く心理状況になる。そこで、面倒なことやリスクのある用事を押しつけるのである。相手の中では何とか要求に応えたいという潜在意識が働くので、以前では考えられないくらい、あっさりと用件を飲んでくれるようになる。

このように、「ほめスイッチ」を自分の中にいつでも用意しておくと、いつしか理想の状況が出来上がる。日々ほめる技術を磨き、ライバルさえも手のひらで転がすようになっておこう。

オウム返し

話を真剣に聞いてるという印象を与えたいときや、逆にどうでもいい話だが相手が相手だけに、聞かないわけにはいかないという時に便利な心理テクニックがある。それがオウム返しという方法だ。

オウム返しは、心理学用語でいうペーシングの一つだ。ペーシングとは、相手の話すリズム・スピードや、音程の高い・低い、声の大きさなどを合わせることで、親近感を抱かせる心理テクニックである。

オウム返しには、相手の言葉を反復することで、「受け入れられている」と思わせる効果がある。やり方は簡単で、相手の話す言葉尻やキーワードを聞いておき、それを繰り返すだけだ。

基本的に真剣に話を聞いていなくても、ただ復唱するだけでいい。それだけで相手にとってみれば、「自分の話をちゃんと聞いてくれている」という合図になるのである。

お酒の入った席での自慢話や苦労話は、どうせ相手も覚えていないのだし、ちゃんと聞く必要もない。しかし、このポーズがなければ、「本当に聞いているのか?」と絡まれるので厄介だ。

もちろん本当に熱心に相手の話を聞きたい場合にも、ちゃんと相手に伝わる。なかなかうまい切り返しが浮かばない時は、オウム返しをするだけでよいということを覚えておくといいだろう。

そうだよね

女性をほめる時、共感を交えたフレーズが効果的だという話をしたが、これは何もほめる時に限ったことではない。女性は基本的に共感されることを望んでいる傾向が強いのである。

例えば、恋人や女性の友人に相談を持ちかけられた時、自分なりの見解を述べ、アドバイスをしたつもりなのに、どうも腑に落ちない表情をしていたという経験はないだろうか?実はそのようなとき、女性は[共感を求めている]だけなのだ。

男性は「相談」と言われると、論理的に解決の方法を見出そうとするが、女性の心理はそのようにできてはいない。「相談したいことがあるんだけど…」の真意は、「聞いてほしい」「理解してほしい」なのだ。

男性でもない悩みを持ち、弱ってしまってるような状況では同じような心境だといえるだろう。いわば、自分の思いを正当化してほしいのだ。こんな時には、「そうだよね」「分かるよ」という言葉が効く。このフレーズには、相手のことを肯定して「 あなたは正しいですよ」「私はあなたの味方ですよ」というニュアンスが含まれている。このような肯定的な言動を心理学では社会的正当化と呼ぶ。

社会的正当化は、会話による実験で証明されている。ある場所に被験者を呼び、男女混合の3人組に分け、一定時間グループで会話をしてもらう。そして、終了後に集まった全員の印象を調べたところ、高評価を得たのは、自分の発言を肯定的に聞いてくれた人だったのだ。

人の心をつかみたいなら、まず相手を受け入れることが大切だ。例え、相手の意見が「間違っている」と思っていても、まずは共感してみる。静かに大きな心で包み込む気持ちが相手の心をつかむことにつながる。

エスバット法

相手の意見に対して反論したい時や聞き入れてもらいにくいお願いをするとき、論理を振りかざして何とか相手を説得しようとしていないだろうか?相手の側に立ってみれば分かるのだが、こういう場合、真っ向から交渉したのでは怒りを買ってしまう恐れさえある。

こんな時こそ心理術が役に立つ。ポイントは相手を一旦受け入れることである。まず相手の言い分に耳を傾け、一旦相手を受け入れる?一緒に添えたいのは、「なるほど」「その通りです」「分かります」などのYESの意味を含んだ言葉だ。

その後、相手が同調されることに安心したところで、自分の意見を主張し始めるのである。この時も、否定の言葉はなるべく使わないことがポイント。例えば、ビジネスシーンでのやり取りであれば、「お気持ちはよくわかります。しかしながら、このような場合ではこちらの方がよろしいかと存じます」「あいにくそちらの方法では受けかねるのですが、こちらの方法でしたら喜んでやらせていただきます」というように、提案してみると良いだろう。

これはエスバット法と呼ばれ、セールスマニュアルにもよく取り入れられている心理テクニックだ。なぜこれが効果的かというと、心理学でいうところの[容認]を含んでいるからだ。つまり、相手の主張に同意し、受け入れて見せる行為になるのだ。怒りや反感も、相手の立場や事情も全て一旦了承したことにするのだ。

さらに、こうした会話では、文末を肯定的なフレーズで終わらせたり、命令形ではなく依頼の形をとることで印象がぐっと変わる。 反論を表に出さず、実質的に主導権を握ることが大事だ。最初のうちは、意見やプライドを捨てて、最後に微笑むことを意識することが大切である。

あえて頼みごとをしてみる

相手を自分のペースに巻き込みたい時、あえて頼みごとをするのも一つの手段だ。「そんな厚かましい…」と恐縮してしまいそうだが、うまく他人を使える人ほど、このテクニックを巧妙に使っている。

アメリカの心理学者であるジェッカーとランディは、この「頼みごと」の心理的効果を援助の認知的不協和の実験により証明している。まず被験者である大学生に問題を解いてもらって、3ドルまたは60セントの報酬を支払う。その後、担当者が「資金繰りができなくなった」と言って、「お金を返してほしい」と学生に頼んだのだ。

この時、①担当者が直接頼む、②大学職員が頼む、③お金を返すことを頼まないという3パターンと返す金額によって、担当者への好意の度合いを比較した。その結果、担当者に最も好意を寄せたのは、①担当者が直接頼んだ場合で、なおかつ返して欲しいと頼んだ金額が大きい方が、好意のレベルが高いことが分かったのだ。

一見、頼み事というのは厄介なことを押し付けるイメージがあるが、相手からしてみると、内容によっては、頼りにされたと満足感や好意、親近感を感じるものなのだ。

ビジネスシーンでも、同僚や後輩に「かなりきつい状況なんです。少しだけでも手伝ってもらえないですか?」と頼まれ、終わった後、「助かりました。ありがとうございます」と言われれば、自分は人の役に立ち、感謝されるだけの人間としての自らの存在意義を強く感じることだろう。さらには頼ってきた相手に好ましくさえ思うはずだ。

頼み事をして好かれるなら、自分にとって悪いことは何もない。この方法は、目上の人にでも同じ立場の人にも異性にも活用できる。上手にお願い事をして、自分の味方をどんどん増やしていこう。

名前を頻繁に呼ぶ

商談の時、相手と親しい間柄になっていると、相手の提案などはなかなか断りにくいものである。このような人の心理を利用して、いち早く親しい間柄になって、相手に自分の提案を断りにくくさせるための心理テクニックがある。それは相手の名前を頻繁に呼ぶことだ。

心理学ではこうした真理を社会的報酬と呼ぶ。名前を呼ぶことは、コミュニケーションの場において、あなたの存在や価値を認めていますよという報酬行為になるのだ。

人間は自分の名前が会話に出てくると関心を向けずにはいられない。名前を連呼されているうちに、相手に対して親近感を覚えるようになるのだ。

ビジネスの場では、自社他社を問わず、肩書きで「部長」と呼んだり、「御社では~」と会社名で会話を始めることがよくある。その時、「鈴木部長は~」などと必ず姓をつけたり、会社名ではなく[相手を名指しする習慣]をつけてみる。また、挨拶する時も「鈴木部長、おはようございます」、判断を仰ぐときも「鈴木部長、いかがでしょうか?」と付け加えると、会話がとたんに「個と個」のものになり、親しみが増し、顔見知りの間柄以上の存在になることだろう。こうなれば、今までなおざりにされていたとしてもきちんと対応されるし、質問した時も良い答えが返ってきやすくなる。

ビジネスだけでなく、長年連れ添った夫婦や少し距離のあった知り合いの場合には、それまで苗字で呼んでいたのなら、名前で読んでみると、同じようにより親近感が生まれる効果が期待できる。

少ない報酬で満足感を与える

「お金はないけど、彼女を満足させたい」「少ない金額しか払えないけど、一生懸命仕事をしてもらいたい」…とても都合のいい考えではあるのだが、心理術にはこのような都合のいい話を可能にする手段がある。それは相手に自分の「弱み」を開いて見せることだ。これは認知的不協和理論という心理的理論を応用したものた。認知的不協和理論とは、得られないものが少ない方が満足し、献身的になろうとする心理状態のことを指す。

この理論は実験で証明されている。まず複数の学生グループに単純作業をさせる。作業の感想を聞くと、学生たちが全員が「つまらない」と評価。その後、高額の報酬と少額の報酬を与え、それぞれのグループに再び作業への評価を聞くと、高額報酬のグループは評価が変わらなかったのに、少額報酬のグループは「おもしろかった」と評価を変えたのだ。どうして少額「おもしろい」と評価したのか?それは過酷な仕事なのに報酬が少ないのを、「自分の評価が低いためではない」と否定するために、自分が楽しいからやっているんだと思い込ませようとする心理が働いたからなのだ。

この心理の法則は恋人を満足させるのにも利用できる。例えば、普段のデートの時、高いレストランに行けず、「ごめんね、あまりお金がかけられなくて。でもボーナスが入ったら、あのレストラン(高級)に必ず連れて行くからね」と言っておく。すると彼女は、「彼とおしゃれなレストランなんか行かなくていい。だって私は、彼と一緒にいることが楽しいんだから」と本音をすり替えるようになる。

やがてこの彼女は、恋人に尽くすことに喜びを見出すようになるのだ。もちろん、たまにはお洒落なレストランに連れて行ったり、プレゼントをあげたりしよう。これも彼女の印象に深く残る出来事になる。心理学や人の心理の法則を知っておけば、無理をして恋人をお金でつなぎとめるような事をしなくてもよいのだ。

第一印象を上げる

合コンや飲み会などの出会いの場での自己紹介はとても重要だ。その第一印象は相手のイメージを作り上げ、その後の付き合いにも影響を及ぼす。心理学ではこれを[初頭効果]と呼ぶ。そこで好印象を植え付けるのに用いたいのが心理学でいう自己提示という手法。自分の長所をアピールしたいポイントをうまくピックアップし、相手に好ましいイメージを抱かせるのだ。

例えば、合コンで好みの女性が「たくましい男性が好き」だった場合は、自分の中のたくましい面をアピールするために、「スポーツクラブに通って筋トレをしています。脱いだらすごいんです」とアピールしてみる。例え月に1回ほどしか入っていなくても構わない。嘘でなければよいのだ。

また自己呈示には自己呈示の内在化という効化がもある。先ほどの例で、男性はたくましい自分をアピールしているが、みんなの前で言うことで、自分自身のことをたくましい人間として認識し始める。

合コンの場では、あまりに素直に等身大の自分を見せても埋もれてしまうだけだ。相手にいいイメージを抱かせることが出来れば、アプローチされるのを待つ立場になれる。多少誇張した内容でも、自分もそれに近づこうとするため、そのうち本当に素晴らしい自分になっているかもしれない。

両面提示

自己呈示とは異なり、悪い面も提示して相手を信頼させるやり方もある。心理学の世界では、これを両面提示という。

よく使われるのが商品を売り込む時だ。例えば、あるシャンプーは商品のメリットとして、頭髪を健やかに保つ成分が豊富に含まれていて、なおかつフケやかゆみにも効果を発揮する。さらに、それだけの品質にもかかわらず、価格も非常にお手頃だとする。このようにシャンプーの良い面ばかりを聞くと、懐疑的になる人もいると思う。そこで、実は薬効成分の香りに多少癖があるというデメリットを伝えるのだ。

商品の良い話ばかりを聞いて警戒しているところに、少しでもマイナス面を明かされると、「隠し事をせず、誠実に情報を開示している」と思い、商品に対して信頼感を抱き、良いイメージを持ち始める。

両面提示の効果はある実験でも証明されている。実験では、生命保険の広告を題材にして、被験者の大学生に対し、リスクを提示しない広告とリスクも提示した広告の2種類を見せ、どれくらい好感を持ったかを聞いた。すると結果は、80%の大学生が、リスクも提示した広告に好感を示したというのだ。この結果から、人は基本情報や良い情報だけを提示されるより、そのデメリットも提示された場合の方が、より高い好感度を示すことがわかった。

これは色々な物を売り込む時にも使える理論だ。あなたは、取引先の人と商談をする時、自社の商材の良い所ばかりをアピールしていないだろうか?または、取引先の人に仕事を通して、自分が優秀であることばかりをアピールしていないだろうか?商品はもちろん、人に対しても両面提示は有効だ。時には、取引先の人に対して、自分の欠点を見せてみると、今よりもグッと信頼関係や好感度が上がるかもしれない。

まとめ

これまで説明してきた内容は、強引な手段を用いたものと思われたかもしれないが、実はそんなことはなく、人間の持つ好意を利用し、相手が気持ちよくなる効果を狙ったテクニックなのだ。


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