会議・プレゼン・交渉で使えるビジネス心理術

社会人なら誰でも、会議やプレゼン、先方との交渉の場面などで、自分の要求を受け入れてもらうことや、思い通りの回答を相手の口から引き出すことに苦心していることだろう。ここでは、社内外の様々なやりとりの場面で応用できる、禁断の心理テクニックを紹介する。

▼目次

「YES」を引き出す説得手法

物事を相手に説明し、納得させるために必要になるのが、説得という働きかけだ。古代ギリシアの哲学者で「万学の祖」といわれているアリストテレスは、相手を説得する際には、次の5つのステップを踏むことがポイントだとしている。

◯人を説得する5箇条
①聞き手の注意を引くストーリーやメッセージを提示する
②解決あるいは回答が必要な問題や疑問を提示する
③提示した問題に対する回答を提示する
掲示した回答で得られるメリットを具体的に説明する
⑤行動を呼びかける

時間が限られ、様々な案件を検討しなければならない会議やプレゼンテーションの場面では、①で指摘されてるように、聞き手に興味を持たせるような“フック”を話の中に盛り込まなければ、相手も興味をもって聞いてくれない。その上で相手の問題点とそれに対する解決策を提示し(②③)、問題が解決することで得られる効果を具体的にイメージさせ(④)、行動に出ることをうながすのだ(⑤)。

こうした手順をしっかりと踏めば説得力が高まるわけだが、アリストテレスは人を説得する際には、さらに次の3つの要素が備わっていることが重要であるとしている。

◯説得の3要素
ロゴス(論理): 論理的に証明することで説得する
パトス(感情):相手の感情を誘導することで説得する
エートス(性格):話し手の性格や信頼度により説得する

例えば、「植物由来の成分でできているので、身体や環境にもやさしい洗剤です」といった広告コピーがあった場合、これは①理論的な説得になる。また、「通常は20万円のところ!本日購入いただいた方のみ、この商品は10万円でご提供します」という売り文句は、「いま買わないと安く手に入らないかも」という消費者の不安な心理に働ける説得(②)になる。さらに、事件や事故などが起こった時にテレビに専門家として登場する大学教授が、難しい専門用語を使って解説する場面などは、エートスを利用した説得(③)になる。

説得にはこうした要素があることを踏まえた上で、相手から確実に「YES」を引き出すことができる具体的な心理テクニックを駆使していくことが重要だ。

アンチ・クライマックス

あなたが伝えたいことを、先に言うか最後に言うかも、説得においては意識しておく必要がある。心理学では、当たり障りのない話をしてから、重要な話やお願い事を切り出す方法をクライマックス法と呼ぶ。一方、単刀直入に重要な話を始めにしてしまう方法をアンチクライマックスと呼んでいる。これらの説得方法は、相手がどんなタイプの人間なのか、また説得をするシチュエーションなどによって、使い分けると効果的だ。

例えば、話の前置きにこだわるようなタイプの人や、相手があなたに興味を持っていて、[話の初めから終わりまでしっかりと聞いてくれそうだ]と判断できる場合はクライマックス法。反対に、[相手があなたの話にそれほど関心を示していない]ような場合や、合理的なものの考え方をするようなタイプが相手のときは、アンチ・クライマックス法を使った方が効果があると考えられる。

プレゼンテーションをする相手が、あなたの企画に注目している場合などは、クライマックス法で話を進めていったほうがその場も盛り上がる。しかし、電話営業でアポイントメントを取る時には、前置きを抜きに本題から伝えるアンチ・クライマックス法を使った方が、無下に電話を切られる可能性も低くなる。

クライマックス法、アンチ・クライマックス法の効果を高めるためにも、その時々の状況や相手の立場をしっかりと認識することが大切だ。

誤前提暗示

ありもしない前提を相手に伝えた上で、相手の判断を自分の思い通りにコントロールする誤前提暗示と呼ばれる心理テクニックがある。

例えば、ファーストフード店などで「トッピングはポテトになさいますか、それともサラダになさいますか」などと言われ、食べようと考えてもいなかったのに「じゃあ、ポテト…」と答えてしまった経験はないだろうか?

これは、人がもっともらしい前提や選択肢を与えられると、それ以外の選択肢があるにも関わらず、[与えられた選択肢の中だけで物事の判断を下してしまいやすい]という人間心理を応用している。トッピングをつけることがあたかも当たり前の前提であるかのように相手を「暗示]にかけることで、ポテトかサラダのどちらかを選ばなければという心理にさせるのだ。

誤前提暗示は、周りの同僚に自分の仕事を手伝ってほしい場合などにも応用できる。「俺の仕事を手伝ってくれよ」というふうに漠然とお願いするのではなく、「この資料のコピーか、テキストの入力やってくれない?」と、手伝うことが当たり前のような二者択一式の問いかけをするのだ。冷静に考えれば、「資料のホッチキスを止める」「資料に抜けがないかチェックする」など、他にも選択肢はあるはずなのに、このように二つの選択肢を封じ込めてしまうことを二分法の罠と呼ぶ。こうして、あなたが手伝ってほしい仕事を、相手が選ぶようコンントロールするのだ。

また、二者択一式のお願いをするときは、本当にお願いをしたいことを選択肢の最後に持ってくるとより効果があると言われている。人間心理では、複数の事柄をリスト的に提示されると、それぞれの記憶に差異が起こり、終わりに近い事柄のことをよりはっきりと記憶しているという系列位置効果が起こるとされているからだ。

一貫性の原理

ある日突然「10万円貸してほしい」と知人や友人に言われたら、冗談だと思って断るか、貸してあげるにしても「どんなことに使うのか」「いつ返してくれるのか」と確認してしまうだろう。しかし、「100円貸して」と言われると、特に気にも留めず貸してしまうだろうし、「100円のついでにタバコも貰っていい?」と追加でお願いされても、ついつい「いいよ」と言ってしまう。

このように人は、小さいお願いに対しては、要求を受け入れてしまいやすく、そうした要求を受け入れてしまったことで、新たな要求にも「イエス」を答えてしまいがちだ。これは、自分自身の行動や態度は一貫したものとしていたいという「一貫性の原理」が心の中で働いたからだ。

この心理作用を利用して、小さな要求から大きな要求まで受け入れてもらえるようにするテクニックが「フット・イン・ザ・ドア」と呼ばれる心理テクニックだ。フット・イン・ザ・ドアというのは、いったん開けられたドアに足を挟みこめば、相手は閉めることができず、どんどん中に入り込んで行けるというイメージがもとになっている。

A「 ごめん!この商品の過去のテレビCM探してもらえないかな?」
B「 え?ああ、いいよ」
A「 それと、そのCMを年代順にリストにしてもらっていい?」
B「まあ、ついでたからいいけど…」
A「 で、リストができたらCMをDVDに焼いて、リストと一緒に◯◯さんの所にバイク便で送ってほしいんだ」
B「え…いいけど、別に…」

このようにして、確実に受け入れてもらえそうな小さな要求に「イエス」言わせてから、少しずつ要求を高めていき、目的となる大きな要求も受け入れさせてしまうのだ。

フット・イン・ザ・ドアと同じように一貫性の原理を利用したロー・ボール・テクニックと呼ばれる説得法がある。これは、相手にとって都合の悪い要求を隠しておいて、相手が自分のお願いをいったん受け入れたら、その要求を持ち出すというものだ。最初に「イエス」と言ってもらいやすいような「誘い玉=ボール」を投げることから、このような呼び方がついた。

上司「残業お願いしたいんだけど。簡単だからさ」
部下「あ、いいですよ。なんですか?」
上司「 明日の会議の資料はなんだけど、引用しているデータに間違いがないか、最初から最後まで全てチェックして欲しいんだ」
部下「は、はい…」

一度、誘い玉を受け取ってしまったからには、次に来る玉が予想外のものでも引っ込みがつかないので、仕方なく受け取ってしまうという人間心理を利用したテクニックだ。

トア・イン・ザ・フェイス

小さなお願いから始めるフット・イン・ザ・ドアとは反対に、過大な要求を最初にぶつけて断られてから、本命の要求を持ち出す「ドア・イン・ザ・フェイス」という依頼法もある。この呼び方は、自分の顔の前でドアがぴしゃりと閉められてしまうというイメージから来ている。

例えば、上司に「こんなに働かせるなら、せめて給料上げてくださいよ」と交渉しても、「それは難しいよ。他の人も同じような条件で頑張っているんだから」と受け入れてくれないだろう。しかし、その後で「それならばこのプロジェクトが終わったら、まとまった休みを取らせてくれませんか」と本命のお願い持ち出すと、前向きに検討してくれる可能性が高くなる。

これは、相手の要求を断ると人は罪悪感を持つという人間心理や、相手が譲歩したからには自分も譲歩してあげなければならないという返報性の原理を応用した心理テクニックだ。

もし、過大な要求だけでなく本命の要求も断られてしまったら、テンポよく代替えの要求を相手にぶつけてみることがポイントだ。「まとまった休みがダメなら土日を入れた連休でも構いません」「この日は先方も動かないでしょうから、休むことができるはずですよね」などと続けていけば、相手はいずれ「イエス」と答えてくれるはずだ。

ドア・イン・ザ・フェイスよく似た効果に、コントラスト効果と呼ばれる心理現象がある。コントラスト効果とは、人間が無意識のうちに複数の選択肢を相対的に比較することを利用した心理テクニックである。例えば、レストランやカフェで次のようなメニュー表記を見ることがある。

【①のレストラン】
Aコース 2000円
Bコース 1500円
Cコース 1200円

【②のレストラン】
Aランチ 1500円
Bランチ 1200円

こうしたメニュー表記の場合、①のレストランでは Bコース、②のレストランではBランチが客からのオーダーを受けやすい。どちらのレストランにも同じ値段設定のメニューがあるにも関わらず、①のレストランでは1500円よりさらに上の値段設定があるために、Bコースが相対的に安く感じられるからだ。

このコントラスト効果は、不動産屋が賃貸物件の内見に客を連れて行く時にも活用されている。同じ価格帯の物件をいくつか案内する時に、初めに築年数が古く、条件の悪い物件を見せてから、不動産屋が勧めたいと考えてる物件を紹介すると、はじめに見せた物件の悪いイメージと今見せてる物件とのコントラストが鮮明になり、たいして条件が良くなくても、契約に繋がりやすくなるというわけだ。

新規企画のプレゼンテーションの場においても、予算的に無謀なA案、現実的で一番通したいと思っているB案、他の二つに比べて企画自体のクオリティが低いC案など、本命と別にダミーの企画案もあらかじめ用意しておけば、コントラスト効果が働いて、一番通したい企画適にすんなり「イエス」と言ってもらえる確率も高くなる。

接種理論

インフルエンザなどの感染症に対して免疫をつけるために、ワクチンを投与する予防接種を受けたことがあるだろう。心理学の世界でもアメリカの社会心理学者であるウィリアム・マクガイアが提唱した摂取理論と呼ばれる原理がある。

これは、ある事柄についてあらかじめ反論を受けて免疫をつけておくと、いざ反論を受けた時に説得されにくくなるという考え方だ。例えば、「毎朝、朝ごはんを食べることは健康に良い」は自明の理として広く受け入れられているために、反論に対する免疫がない。だから「実は朝ごはんは健康に良くない」と攻撃されてしまうと、簡単に説得されてしまうのだ。しかし、事前に反論を経験していたり、「その反論は誤りである」という情報を頭に入れておくと、「朝ごはんは健康に悪い」と言われても抵抗ができるのだ。

この原理を利用して、自分たちのマイナス要素をあらかじめ相手に伝えて免疫をつけさせておけば、いざマイナス要素が露呈しても、それを受け入れてもらいやすくすることが可能なのだ。

例えば、営業先の社長に「弊社にコピー機を任せていただければ、他社よりも価格は数千円高くなりますが、万が一のトラブルの対処は万全ですし、他のオフィス機器のサポートもまとめて対応することができます。何社もの業者との煩わしいやり取りから解放されるわけですから、そのぶんの時間や労力を日々の業務に向けていただけるのです」と言うように伝えることができたとする。そうすると、例えばその社長が他の業者からあなたの会社は価格が高いと指摘されたとしても、トラブル対応の万全さや、その他サービスの充実具合などを条件に、あなたの会社と契約をしてくれる可能性が高くなるのだ。

こうした場合には、ライバルが比較対象にしてきそうなポイントをしっかりと認識しておき、自社のウィークポイントだけではなく、それを補強できるようなメリットも前もって伝えておくことが肝心だ。

スティンザー効果

あなたは社内で毎週のように行われる会議に、どのような姿勢で臨んでいるだろうか?アメリカの心理学者であるスティンザーは、会議など複数の人間が集まる場において、次のような法則が見られるという研究結果を残している。

・以前、会議などで議論を戦わせた人間は、その議論相手の正面に座りたがる。
・ある発言の次に発せられる発言は、反対意見である場合が多い。
・会議のリーダーの力が弱い場合は、参加者は正面にいる人間と話したがる。逆にリーダーの権限が強い場合は、隣同士で会話がされる場合が多い。

この3つの効果はスティンザー効果と呼ばれている。会議の出席者はもちろん、リーダーや進行役はこの法則を踏まえて、正面に座ってきた相手には対等な議論ができる心づもりでいる、意見が出た時には反対意見ではなく賛成意見も出やすいような働きかけをする、参加者の私語がどのようにされているかで会議の流れを読む・コントロールするといった行動をとることが!円滑な会議を行う上でのポイントになる。

ランチョン・テクニック

最近は日本でも、「パワーブレックファスト」や「パワーランチ」というように、朝食や昼食をとりながら社内会議をしたり、クライアントと打ち合わせをするスタイルが定着してきた。

人間の脳は美味しいものを食べたり、素敵な雰囲気の場にいる時には否定的な思考にならず、その時のことをよく記憶していると言われている。また、飲食を楽しみながら仕事の話や相手と交渉を行うことは、ポジティブな話を引き出すための非常に有効な手段であるという心理的な裏付けもある。

アメリカの心理学者であるグレゴリー・ラグランは、これをランチョン・テクニック命名し、美味しい食事や楽しい時間の中で交わされた会話や人物に、人間は好印象を抱くと提唱した。

美味しいお昼ご飯を食べながらの打合せでは、ランチョン・テクニックが働くだけではなく、ある対象とある対象がお互いに結びついているものだと錯覚する連合の原理も働くために、その時の美味しい料理と打ち合わせが「とても良い雰囲気の打ち合わせ」として記憶に残る上に、あなた自身も好感度が高い相手として印象に残ることになるのだ。

ちなみに「ランチョン」とは英語で「形式ばった昼食」という意味だが、気持ちの良い食事の場であるなら、お昼以外でも同じような効果が得られる。そう考えると、昔から広く行われ行われている「接待」という慣習も、心理的に理にかなっているともいえる。

また、ランチョン・テクニックは仕事な場面に限らず、恋愛などのシチュエーションにも利用することができる。出会って間もない異性から自分に対する好意度を高めたい時や、相手を口説く場合にもこのテクニックは効果があるのだ。

モスコビッチの方略

社内外の人間とプロジェクトチームを組んで仕事を進めていくうえで、自分の意見がなかなか採用されなかったり、チームの和を乱すような反対意見を口にしたことで、周囲から冷たい目で見られたような経験はないだろうか?

経験や実績があまりない場合は特に、自分の意見を集団の中で通すことはなかなか難しい。しかし、モスコビッチの方略という心理テクニックを利用すれば、あなたの意見が周囲の理解や承認を得られるかもしれない。

モスコビッチの方略とは、集団の中の少数派が多数派に影響を与えるというマイノリティ・インフルエンスという心理原理で提唱されてる方法の一つ。実績などがない人間であっても、自分の意見主張をかたくなに繰り返し、一貫した態度を取り続けることで、多数派の意見を切り崩すことができるとされている。

例えば、何度突っ返されようが「この企画なら絶対プレゼンに勝てます!」と同じ企画を出し続けていると、多数派の中では自分たちに対する信頼が揺らぎ始め、「もしかしたら自分たちが間違っているんじゃないか」「そこまでまで言うならやってみようか」と、その意見を受け入れてしまいやすくなる。

これはフランスの心理学者であるセルジュ・モスコビッチが、4人の被験者と2人のサクラを使い、青色のスライドの色を回答してもらうという実験を行ったところ、少数派であるサクラが「緑」と一貫して間違った意見を回答すると、多数派の被験者も少数派の一貫した回答に影響されたという結果にもとづいている。

まとめ

「誠意を見せれば伝わるだろう」、「ひたむきに行っていればいつか快く受け入れてくれるはず」というような思いで日々邁進している方もいるだろう。しかし、業務の効率化やライバル企業との競争などに追われる現代のビジネスマンは、心理テクニックを武器にして、いかに自分の主義・主張を相手に伝え、確実に「イエス」を引き出すかが大切なのである。


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