睡眠には4つの段階がある

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記憶のしくみに睡眠がどのように関与するのか。
睡眠の構造から考察する。

寝ている間は、脳はずっと同じ働きをしているわけではない。睡眠は、その深さ、脳波の状態を基準にして3つの状態に分けられる。

以下、3つの睡眠状態について説明する。

▼目次

まどろんでいる状態

目を閉じると、脳波にアルファ波(8~13ヘルツ)が出現する。

アルファ波はリラックスしている時に出現する脳波として知られているが、気持ちの上でリラックスしていなくても、目を閉じると自然にアルファ波が出てくる。このアルファ波が脳波の50%以上を占めていれば目覚めているが、脳波のスピードがゆっくりになっていき、アルファ波が少なくなる。

眠っている自覚はないものの、脳波上では眠っているという状態のことを指す。意識があるようなないような、モヤモヤとまどろんでいるような感じだ。

ところで、寝入りばなや起きがけにアイデアを閃いた経験がないだろうか?迷っていたことが決断できる、解決に役立つ資料が思い浮かぶということもあるだろう。

このひらめきを生み出すには、集中している時に使われる神経回路と、ぼんやりしている時に使われる神経回路がバランスよく使われることが必要である。このバランスが自然に作られるのが、脳波がゆっくりになっていく眠り始めの状態と、脳波が早くなっていく起きがけのタイミングなのだ。

以前、寝床についたら意識を失うようにあっという間に寝落ちしてしまうのは、睡眠不足のサインだと説明した。慢性的に睡眠不足になっていると、まどろんでいる状態をすぐに通り越して深い睡眠に入る。まどろんでいる状態というひらめくための大切な時間が活用できなくなるのだ。

また、なかなか満足のいく睡眠が得られない人に話を聞くと、「一晩中眠れなかった」と話す人が多いのだが、実際にははっきり目覚めているわけではない。この場合は、眠った感じもしないが、起きていたわけでもないという、まどろんでいる状態の時間がかなり長かったということなのである。

浅い眠り

目を閉じてしばらくすると睡眠感を伴う状態に入る。この時、脳波はアルファ波からシータ波(4~7ヘルツ)に移行し、浅い眠りの状態になる。

浅い眠りの状態では、脳波上に糸巻きのような形をした紡錘波という波が出現することがある。この紡錘波は、我々が記憶力を高めるのに、重要な役割をしていると考えられている。

我々の脳は、何らかの体験をすると、その記憶を海馬という部位に一旦保存する。この海馬の役割は一時保存であり、長い期間保存するためには、脳の横あたりに位置する側頭葉のネットワークに記憶を移す必要がある。この海馬から側頭葉に記憶を移す作業中に紡錘波が現れる。つまり、睡眠中に記憶を一時保存から長期保存に移す、本当の意味の覚える作業が行われているのだ。

深い眠り

眠り始めて30分を越えたあたりから、0.5~4ヘルツのデルタ波という脳波が出現する。 これがいわゆる「ぐっすり」眠っている状態だ。デルタ波が50%を占めるまでを深い眠りの状態という。

この深い眠りも、記憶に重要な役割を果たしている。デルタ波は、記憶のリプレー(繰り返し学習)をしている。昼間に学習したことは、脳波に保存されるだけではなく、さらにその情報を有効活用できるように、リプレーをして習得されているのだ。

例えば、腕が動かなくなった人に、腕を動かす訓練をした後、眠った場合と眠らなかった場合では、眠った場合の方が、腕の動きが回復したという実験結果がある。

また、単語学習をした後に、眠った人の方が眠れなかった人よりも、成績が向上することも明らかになっている。これら学習を促進する役割に、深い眠りが関わっていると考えられている。

あなたも何かを学習した時、翌日には前の日よりも上手にできた経験があると思う。これは、前の日に練習したから上達したというだけではなく、その晩に睡眠中にも脳が練習をしたから上達しているのだ。

また、脳のある部位を使うと、その後睡眠を取った時に、使った脳の部位に限定してデルタ波が出現することが知られている。これは局所睡眠という現象だ。新しい仕事をしたり、慣れない作業をした日には、あなたの脳の一部で局所的に深い睡眠が行われ、明日のあなたが上手に作業できるように準備をしているのである。

これだけ重要な役割を担っているデルタ波なので、使い放題というわけにはいかない。1日に使用できるデルタ波は限られている。例えば、昼間の仮眠で30分以上眠ってデルタ波を使ってしまうと、夜の睡眠で使うはずのデルタ波が減ってしまう。記憶のリプレー作用を有効活用するには、いかに不用意な居眠りを避けて、夜の睡眠にデルタ波を集中させるかが鍵になるのだ。

レム睡眠

ここまで説明した3つの睡眠状態は、全てノンレム睡眠を指す。これとは全く別の機能を持つのがレム睡眠だ。

動物の睡眠は、このレム睡眠が主体である。レム睡眠では、外部の状況に注意を向けることができ、外敵に襲われないように意識しながら眠ることができる。これは人間のレム睡眠でも同じだ。眠っている間にベルを鳴らして、それに対する反応を調べた実験では、他のノンレム睡眠の段階に比べ、レム睡眠の時が反応が良いことが知られている。

人間の場合は通常3つの睡眠状態、 まどろんでいる状態→浅い眠り→深い眠りという順で眠りが深くなってから、徐々に浅くなってきたところで最後にレム睡眠が出現する。

レム睡眠も記憶に重要な役割を果たしており、動作の記憶に関与していると考えられている。

パソコンが登場してから現在までの短期間で、ブラインドタッチは当たり前の技術になった。このパソコンのタイピングのように、動作の精度を上げて素早く動けるように上達するのは、レム睡眠中に脳内で動作の練習をしているからだと考えられている。実際に、パソコンでタイピングをしてもらい、その後レム睡眠をとった人ととらなかった人では、レム睡眠を取った人の方がタイピングが上達したという結果が得られている。

レム睡眠にはもう一つの記憶に関わる重要な作業がある。それは感情記憶の消去だ。感情の記憶を消去して、事実だけの記憶にすっきり整理する役割をレム睡眠がになっている。この作業中、私たちはあまり良くない夢を見ていることが多い。

我々は、ある出来事とその時の感情をセットにして記憶する。例えば、上司に明日の朝一番に資料を送るように言われたとする。脳はこの資料を送るという事実とともに、その時の感情を記憶する。事実は誰の記憶でも同じはずだが、感情の記憶は様々だ。上司に指示されたことを一人前と認められたと感じる人もいれば、嫌がらせをされたと感じる人もいる。脳はこの余分な感情の記憶を消去し、シンプルに事実の記憶だけにしているのである。